未成年者の喫煙とタバコ煙のない環境
尾崎米厚 鳥取大学医学部社会学講座環境予防医学分野
未成年者が喫煙をすると体に悪いのは明らかである。急性期の健康影響は、呼吸器症状、体調レベルの低下、血管の変化等が起こる。中長期的な生活への影響は、運動パフォーマンスの低下、学業成績との関連が指摘されている。また、未成年のうちから喫煙するということは、生涯の喫煙年数が増え、したがって、生涯喫煙本数も増えるので、成人になってからの様々な喫煙起因疾患のリスクも高くなる。
わが国には、未成年喫煙禁止法があるにもかかわらず、中高生にはすでに多くの喫煙者がいることがわかっている。成人の喫煙者に尋ねても、未成年のうちから喫煙を解していたと回答するものの割合は高い。成人の喫煙率を下げるためには、喫煙者への禁煙指導の普及が重要であるが、近年の画期的治療方法であるニコチン置換療法をもってしても、治療に結びついた人のうち約2割しか長期禁煙には成功していない。すなわち、8割は失敗しており、ニコチン依存症のしつこさを思い知らされる。
したがって、そもそも吸い始めない喫煙防止が極めて重要であるといえ、多くの喫煙者が喫煙を開始する思春期が重要な時期となる。しかし、わが国では、未成年者が他人のタバコの煙に接する場面も多く、様々なタバコ広告など未成年者が喫煙に関心を持ってしまう環境も多いという問題が存在する。
中高生の喫煙率が減少した
いままでに、全国を代表するような青少年の喫煙行動についての調査は1996年と2000年度および2004年度の3度行われている。喫煙経験者率は、中学男子で、1996年34.6%、2000年28.7%、2004年18.2%、中学女子では、それぞれ19.9%、20.0%、13.9%、高校男子では、51.9%、50.3%、36.0%、高校女子では、33.5%、33.7%、24.0%であった。月喫煙者率は、中学男子で、1996年10.9%、2000年9.4%、2004年5.1%、中学女子はそれぞれ、4.9%、5.6%、3.6%、高校男子は、30.7%、29.9%、15.9%、高校女子は、12.6%、13.1%、8.2%であった。毎日喫煙率は、中学男子はそれぞれ2.4%、2.6%、1.3%、中学女子は0.7%、1.0%、0.6%、高校男子は、18.0%、18.4%、8.5%、高校女子は、4.6%、5.4%、3.1%であった。中学男子では、2000年調査の時点で喫煙経験者率の減少が認められていたが、他のカテゴリでは1996年度の結果とほぼ同様であったが、男女、中高とも2004年では、喫煙率の劇的低下が確認された(図1,2)。
タバコを入手しやすい環境がやや改善されたか?
現在喫煙者(月喫煙者)のタバコの入手先をみると、自動販売機、コンビニエンスストア、もらうが多く、中学生では、自動販売機、もらう、家にあるタバコを吸う、の比重が高い。これは、喫煙習慣が成立するに従い、自らが購入するようになることと、中学生にも入手しやすい方法が自動販売機であることを物語っている。入手先の男女差は小さく、女子のほうがもらう、家にあるものを吸う、の割合が高い傾向にあった。3回の全国調査の結果を比較すると、タバコ屋、コンビニエンスストア、もらう、自動販売機いずれの入手方法も減少しており、家にあるタバコを吸う、の割合が増加していることも考えると対面販売を中心に中高生の喫煙者はタバコを手に入れにくくなってきたのかもしれない。しかし、減少幅が大きいのは中学男女のコンビニエンスストア、もらう、高校男子のコンビニエンスストア、タバコ屋であり、高校女子の減少割合は小さかった。この30日間にタバコを売ってもらえなかった経験をたずねる(2004年調査)と月喫煙者にしめる「いつでも売ってもらえた」割合は、中学男子39.1%、中学女子42.7%、高校男子70.5%、高校女子66.0%ときわめて高く、しかも男女差があまりないばかりか女子の割合が高い学年も認められた。したがって、中高生の喫煙者は、男女とも対面販売の場面でさえなお多くのものがタバコを入手できていることに変わりはない。自動販売機撤廃を含めたさらなる取り組みが必須である。
中高生の男性家族の喫煙率が減少した
中高生の喫煙者は周囲に喫煙者が多いが、中学では周囲の者の喫煙の影響がより強く、高校では食習慣や学校生活の問題がより強く関連するようになると考えられる。
2004年度の全国調査における中高生の喫煙率低下の要因を検討するために周囲の者の喫煙率を見ると、男女、中高とも父親と兄の喫煙率低下が2000年から認められ、2004年でさらに低下した。一方、中学男子と、高校女子で母親の喫煙率増加が認められた。男女、中高とも1996年、2000年と比べ2004年で友達がいないと回答した者の割合が増加した。特に、中学女子、高校男子で学校が敷地内禁煙である場合と比較して、その他の場合である建物内禁煙、分煙、不完全分煙の学校の喫煙率が高い傾向が認められた。家族の喫煙率の低下、学校の敷地内禁煙の進展、友達の減少が喫煙率減少に寄与している可能性が示唆された。
喫煙者は喫煙する友人を持つ割合が高いのは、中高生の喫煙者同士が集合していることを意味するが、喫煙する友人を持たない者の月喫煙者率を1として、喫煙する友人を持つ者の月喫煙者率の比を計算すると、男子より女子で、中学より高校で、そして、1996,2000,2004年と進むにしたがって比が大きくなっていた。喫煙率が低い集団ほど(喫煙がまれな事象であるため)比が高くなりやすいのであるが、高校で比が高いのは高校により喫煙者が集中するところがあることを示唆している。喫煙者がより集中する傾向が出てきたことは、全体の割合が減っても、中高生の健康格差が進んできた可能性もあり心配な現象である。
親の喫煙は子どもの喫煙開始の危険因子になっているだけでなく、大人のすうタバコは特に中学生など喫煙習慣が成立する前の子どもの吸うタバコの供給源になっており、さらには子どもへの受動喫煙の健康被害を起こすし、乳幼児であれば家庭内事故(誤嚥)の原因にもなっている。親の喫煙の子どもへの影響は中高生の喫煙行動の関連要因分析の結果を見ても明らかである。父や兄の喫煙率の減少が認められてもその影響の大きさは変わらない。
しかし、わが国の大人はこのような重要性について認識していることが少なく、これがさらに問題を深刻にしているといえる。1996年の親子調査によると、親は自分の子どもが喫煙者であると回答していても、自分の子どもは喫煙者でないと思い込んでいること、それが特に父親で、女子の親で顕著であること、子どもが喫煙していても親はあまり叱らないことなどが明らかになっている。親など家族の中の大人は、自らの子どもの喫煙にもっと関心を持ち、自分達の問題として認識する必要がある。家庭内で大人の喫煙行動に子どもを巻き込まない(大人が吸うところを見せない、タバコを置く場所に気をつける、子どもにタバコを買うお使いをさせない等)環境づくりの徹底が必要である。
喫煙者は同時に飲酒者でもある場合が多い。全国調査の結果によると喫煙者の飲酒率は極めて高い。喫煙者の飲酒率は女子のほうが高いくらいである。3日の全国調査を比較すると、月喫煙者でない者の飲酒率が、男女、中高とも最近になるほど減少しているが、月喫煙者の月飲酒率は減少していない。したがって、喫煙者とそうでない者の健康によいライフスタイルの格差が広がり、特定の集団に健康によくない危険因子が集積する傾向にあるといえる。青少年の中にもすでに健康格差社会が広がってきたのかもしれない。
青少年の喫煙行動に影響を与える環境要因
若年者の喫煙者はアメリカ銘柄のタバコをよく吸うことも報告されており、中高生の全国調査結果の集計でもアメリカ銘柄を良く吸い、その割合も増加していることが明らかになった。若年者は、マーケティングにより敏感に反応すると推察され、これらの環境要因についての重要性を認識することは大切である。
わが国の青少年のライフスタイルに影響を与える環境については様々な調査研究が実施されつつある。現在までに、中高生がよく読む雑誌上のタバコ製品広告の問題、青少年がよく読むコミック誌における喫煙シーン、視聴率が高いテレビドラマにおける喫煙シーン、興行成績がよかったハリウッド映画中の喫煙シーン、電車内の中吊り広告におけるタバコ製品広告などが調査され、その多さが指摘されている。たとえば、中高生がよく読む雑誌に多くのタバコ製品広告が掲載されており、タバコ業界の自主規制後も依然多くの広告が掲載されていることがわかっている。また、業界の自主規制によりタバコの製品広告のない少年漫画コミック誌には、多くの喫煙シーンが存在し、雑誌によってはかなりのページ数にのぼった。
また、タバコの自動販売機は、中高生の最も重要なタバコの入手経路であるが、現在、成人識別機能付自販機が試験的に運用されている地域があるが、これにも抜け道が考えられ、新たな犯罪を誘発するとの指摘もあり、さらには自動販売機自体がタバコの製品広告になっているとの指摘もあるため、未成年喫煙防止の観点からは完全撤廃しかないと考えられる。
青少年の喫煙防止対策
欧米では、地域や学校における喫煙防止対策は、効果があっても小さいといわれており、価格政策等国家的な規制を支持する方向にあるが、わが国では欧米よりも学校における取り組みの効果が大きい可能性もある。それは、2004年調査によると、学校の敷地内禁煙を開始した学校で中高生の喫煙率が低い傾向が認められたからである。
学校での喫煙防止教育は、現在、小中高校の新学習指導要領に実施することが明記されており、ほとんどの学校で実施されるようになったが、内容、指導方法、効果判定についてはまだ十分とはいえない。
わが国では、青少年の喫煙行動に影響を与える社会環境対策として、あらゆる場面での受動喫煙の被害解消の徹底、タバコ価格の上昇、間接的なものを含めた広告規制、自販機の規制・撤廃、コンビニ等での対面販売場面での未成年への販売禁止の徹底、未成年者の喫煙者も意識したタバコ包装の警告表示、ガムタバコ販売禁止なども必要であろう。最後に、小児、青少年、若者がよく受診するような医療機関、診療科、歯科診療所、学校検診、健康関連サービスなども子ども自身や親や家族に介入する重要なポイントになりうる。将来のことだけではなく受診理由など今そこにある問題に喫煙を直結させて介入できるため、行動変容のきっかけになる可能性は高い。
参考文献
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