整形外科疾患に対する喫煙の影響
整形外科疾患に対する喫煙の影響
Cigarette smoking and its orthopedic consequences
Kwiatkowski TC, Hanley EN Jr, Ramp WK カロライナ医学センター整形外科
Am J Orthop 25(9):590-7,1996
要約
喫煙の生体影響は、整形外科分野でもくわしく検討されるようになった。喫煙は骨代謝と骨折の治癒を遅らせ、術後感染のリスクを高め、骨癒合不全率を高める。 この論文では、これらの点について触れるほかに、喫煙が創傷治癒とマイクロサージャリーに与える悪影響も論ずる。ニコチンの病態生理学的役割についても詳しく触れる。
これまで喫煙およびニコチンの生体影響は、ガンと心臓病に絞って論じられてきた。しかし最近筋骨格系に対するタバコの影響が注目を集めている。 喫煙が創傷と骨折の治癒を妨げることは臨床的によく知られている。整形外科医は喫煙の有害なことをしっかり認識して患者に禁煙を勧める必要がある。
喫煙と創傷治癒
喫煙は血液循環に重大な影響を与える。喫煙は心拍数・末梢血管抵抗・血圧・心拍出量・冠状動脈血流を増やす。 また全身の微小循環血流を減らす。 外科医は、喫煙患者では術後血管閉塞の危険が高く創傷治癒が損なわれると認識している。 微小血管修復術により再接着された指の血流は喫煙者で明らかに悪い。動脈閉塞疾患の喫煙者は、切断を余儀なくされる危険が高く 合併症や治療の失敗の危険も高く、切断しても再切断が必要となることが有意に多い。 循環障害のために膝下切断を行った男性喫煙患者では術後の歩行速度と距離が非喫煙者に劣る。 喫煙者では皮膚弁の生着率と動静脈シャントの開存率が悪い。 血管柄付皮弁移植術を受けた喫煙患者では皮弁の壊死が多いというデータが形成外科領域で続々出されている。 受動喫煙とペルテス病に強い関連があることが最近見いだされた。これはもともと乏しい大腿骨頭の血流をニコチンがさらに減らすためと考えられている。 喫煙によるこれらの有害作用は、血小板凝集の亢進によると考えられる。 さらにタバコ煙のガス層に含まれるシアン化水素と一酸化炭素なども関与すると考えられる。 呼吸酵素阻害作用をもつシアン化水素は、細胞レベルで酸化的エネルギー代謝を妨害して創傷治癒を遅らせる。 ラットの皮弁をタバコ煙に曝露させると酸素より親和性の強い一酸化炭素がヘモグロビンに多く結合し酸素運搬能が低下し、酸素ヘモグロビン解離曲線が左方移動し組織への酸素放出が低下する。 実験的にも臨床的にも、創傷治癒と皮弁生着を損なう主犯のタバコ煙成分は、シアン化水素や一酸化炭素よりもニコチンであると言える。 ニコチンは細胞の増殖と上皮細胞の新生を抑える。 ニコチンの血管収縮作用により手術皮膚の壊死率が高まることがラットのタバコ煙曝露実験で明らかにされている。 これはニコチン投与のみでラットと豚の皮膚弁壊死率が高まるという他の研究者の実験結果によっても裏付けられた。 Sacharらは、ニコチンが血流の乏しい四肢において微小血管を閉塞させ壊死を促進するというさらに重要な事実を発見した。 ニコチンは微小血管を変性させる長期作用と収縮させる短期作用によって傷害を起こすと考えられるから、指の再接着手術後は禁煙が必要である。 さらに再接着術後の血液循環を確保するために禁煙が必要なことを示したデータも報告されている。 van Adrichemらは紙巻きタバコ2本喫煙後の再接着指血流をレーザードップラー・フローメトリーにより計測し、非喫煙者では4%増加するが習慣的喫煙者では 19%低下することを見いだした。この低下は喫煙終了10分後まで続いた。 また喫煙負荷前の平均血流量は習慣的喫煙者群で有意に低下しており、喫煙が長期的悪影響をもたらすことも明らかにされた。 このような証拠があるにもかかわらず、喫煙が微小循環遊離皮膚弁移植を失敗させる危険因子であるか否かの明確な結論はでていない。 Khouriは495例の微小循環遊離皮膚弁移植について、術式および生着率を検討する無作為抽出二重盲検法による臨床的前向き調査を行った。 その結果、肥満、末梢血管疾患、移植部位への放射線照射歴は生着失敗率と合併症発生率を増やしていた。喫煙はリスクの増加と関連していなかった。 したがって優秀で熟練した術者なら、ニコチンの血管収縮作用のために手術の成功率が低下することは避けられるかもしれない。
喫煙と骨代謝
喫煙が骨代謝と骨粗鬆症にどのような悪影響を与えるかは整形外科医の関心のあるところである。 喫煙は骨粗鬆症の危険因子と考えられている。 タバコを吸う女性は非喫煙女性に比べ閉経後の骨皮質の減少率と脊椎骨の粗鬆化が有意に大きい。 de Vernejoulらは、その原因について、骨芽細胞の働きをタバコ煙が直接阻害して骨形成を抑制するためであるとのべた。 タバコ煙抽出物がカルシトニン作用を阻害することも報告されている。 これらのメカニズムで骨折端の粗鬆化が直接および間接的に促進され、骨吸収も促進されるという考えも提案されている。 喫煙と骨塩密度(BMD)に関する研究がいくつかある。無煙タバコ使用によってもタバコ煙抽出物投与によっても歯槽骨萎縮がおこる。 RundgrenとMellstromは、 骨塩含有量(BMC)と喫煙の関連を調べ、喫煙者の平均BMCはすべての年齢層で非喫煙者より男性で10~20%、女性で15~30%少ないことを見いだした。 喫煙習慣の異なる一卵性双生児ペアを対象とした研究では、非喫煙者と喫煙者の間に腰椎および大腿骨近位端のBMDの差がみられた。 このBMDの差は喫煙男性および女性の骨折リスクを2~6倍高めるという。 1993年BroulicとJarabは、ニコチンが骨代謝に長期的な悪影響をもたらすと指摘した。 彼らはニコチンを投与された動物のBMDおよびBMCが非投与群より有意に低いことを見いだしている。
喫煙と腰痛症
最近、喫煙と腰痛症に関する詳しい報告が増えている。多くの疫学調査で、喫煙が腰痛症の危険因子であることが示された。 Frymoyerは、腰痛の頻度と喫煙量あるいは喫煙期間に量反応関係がみられたと報告した。 最近Hanleyらは、腰痛症疫学調査票を用いた調査で、就業中に発生した腰痛症と喫煙の間に強い関連があることを見いだした。 仕事中に腰痛症を発症した者は、非喫煙者で5人に1人にすぎなかったが、喫煙者では2人に1人だった。さらに腰痛や下肢痛による作業能力低下は1日喫煙本数と関連していた。 すなわち腰痛症の喫煙者の中で1日20本以上吸う者は、それ以下の喫煙量の者より腰痛のために仕事に差し支えると感じている者が多かったのである。 喫煙と腰痛症との関連については少し異なる成績が出た調査もある。 Boshuizenらは、 喫煙者と非喫煙者の腰痛症の頻度調査で、四肢痛の方が腰痛や背部痛よりも喫煙と密接に関連していることがわかった。 このやや予想外の成績は、喫煙が疼痛感受性に影響を及ぼしている可能性を示している。 しかしこのメカニズムによって喫煙が腰痛を増やしているとは言えない。喫煙によって増加したエンドルフィンが全般的な疼痛を緩和している可能性があるとの報告もある。 ストレスが増えると内因性オピオイドの緩和効果を求めてタバコを吸いたくなるという考えもある。 このようにいまのところ喫煙と腰痛症の関連およびそのメカニズムが充分解明されているとは言えない。しかしながら、いくつかの考え方が提起されている。 ひとつは、喫煙による骨粗鬆症が腰椎椎体の索状構造骨の微小骨折をもたらすという考え方である。 もう一つは喫煙によって引き起こされる咳が原因という考え方である。喫煙と腰痛症に一番多く関連する症状が慢性の咳であるという報告がいくつかある。 咳は腹腔内圧を高めて椎間板内圧も高める。それにより脊椎に物理的ストレスがかかる。 しかし咳と喫煙が直接関連するとは必ずしも言えない。 なぜなら、咳あるいは喫煙と腰痛症との相関を見い出せなかった報告や、喫煙と腰痛症の関連を咳だけで説明できないとのべた報告があるためである。 DeyoとBassは、喫煙は、肉体労働、ストレスなど腰痛症をおこしやすい社会的因子のマーカーにすぎないのではないかとのべている。 最近、喫煙が椎間板の代謝を変え物理的損傷のリスクを高めていることを示す知見が見いだされた。 Battieらは、喫煙習慣の違う一卵性双生児ペアの椎間板をMRIで調べ、喫煙者の椎間板変性スコアが非喫煙者より18%高いことを明らかにした。 彼らは喫煙による小動脈の硬化巣が血管を閉塞し椎間板血流を減らすために栄養不足が起こるという考えを提案している。Mooneyらもこの考え方を支持している。 彼らはタバコ一本分のニコチンをイヌに静注すると椎体血流が減ることを報告した。 HolmとNachemson は喫煙が椎間板の溶質交換機能を低下させ椎間板周囲の循環を減らすという同様の仮説を提起している。 喫煙が椎間板に与える影響に関するこれらの知見は実際の臨床所見とよく合う。 HanleyとShapiroは、 根性疼痛のために一次的椎体切除術を受けた120名の患者の予後を追跡し、術後の喫煙と日常生活に差し支える腰痛症との間に強い相関関係を見いだした。 彼らは15箱・年(=1日1箱15年間)以上の喫煙は手術治療の予後を悪くする代表的な因子であるため、手術治療により最も利益を受けられる患者を選択することが重要とのべている。 KelseyらとHeliovaaraらは、椎間板ヘルニアのリスクが喫煙者で高いことを見いだした。 これらの研究から、椎間板ヘルニアを手術すべきかどうかを判断する上で、症状が長く続いている、長く休業しても職場が困らない、年齢が40才以上などの 外科治療成績悪化因子がある場合、喫煙歴の有無が重要であることが明らかにされた。
喫煙と術後感染
科学的論拠は充分ではないが、いくつかの研究で喫煙が術後感染の明かな危険因子であることが示されている。 Kayvanfarら は、成人の後側方椎体器械固定術後の感染のリスクが肥満者と喫煙者に有意に多いことを見いだした。 TaylorらとThalgottらは、栄養状態の悪い患者のほかに喫煙患者でも感染率が高いと指摘している。 Thalgottらは術後感染の続く待機的手術患者の90%は喫煙者であることを見いだした。これらの知見があるため、具体的な期間は示されていないが、 術前に完全に禁煙することを義務づけている整形外科医もいる。
喫煙と癒合不全
喫煙が骨折治癒を阻害するかどうかに関する研究は多くはない。 喫煙と骨折治癒を検討した動物実験においてLauらは、 喫煙が骨の癒合不全および癒合遅延のリスクを倍増させる事を見いだした。 Schmitzらは、喫煙者では外傷性骨幹部骨折の癒合不全のリスクが高いという臨床成績を発表した。 1993年に彼らは、ギプス固定・髄内釘外固定術などで治療した閉鎖骨折およびグレード1の開放骨折患者200例について、喫煙が治癒を遅らせる可能性のあることを報告した。 43%の喫煙者でレントゲン学的治癒が遅れ、完治までの平均期間は非喫煙者にくらべ70%長かった。 Blanksらは低濃度のニコチンを投与されたラットでは骨折治癒の強度が低下していることを報告した。これはニコチンが骨折治癒に悪影響を与える可能性を示す知見である。 喫煙が骨性癒合の治癒機転を阻害する可能性があることは臨床的に示されているが、喫煙と偽関節形成の関連を検討した研究の結果は一定しない。 喫煙者では椎体固定術後の癒合不全あるいは偽関節形成のリスクが非喫煙者の3~4倍と報告されている。 Brownらは、2椎体にわたる椎弓切除および椎体固定術後患者100例について、喫煙と偽関節形成の関連を症例-対照研究により検討した。 偽関節は喫煙症例50例中20例(40%)に形成されたが、非喫煙症例では50例中4例(8%)にすぎなかった。 HanleyとLevyは、50例の腰仙椎辷り症の固定成績を検討し、喫煙者で癒合不全が多かったが、有意差はなかったとのべた。 Brodskyらは、 症状のある頚椎偽関節症34例では喫煙との関連は見られなかったと述べている。 Cobbらは、足関節固定術後の癒合不全と喫煙について、喫煙者では非喫煙者の3.75倍癒合不全が発生したと報告した。 残念なことに、これらの研究の多くでは、職業や社会経済階層などの重要な交絡因子の調整が不充分であり、その機序の病態生理学的検討も行っていない。 最近、骨癒合不全を引き起こすタバコ煙成分の主役はニコチンであるとの考えが提示されている。 Daftariらは、 ウサギの前眼房に移植された骨片の血行再建率がニコチンによって低下することを報告した。 彼らは、脊椎と目では生物学的条件が異なるが、ニコチンによる早期の血行再建抑制が喫煙者における脊椎固定術後の骨癒合阻害作用の病態生理メカニズムであると述べている。 自家腸骨移植による後側方横突起間腰部脊椎固定術を施したウサギを用いた動物実験で、ニコチン投与群では全例が骨癒合不全を起こしたが、 ニコチン非投与群では56%が安定した骨癒合を達成したとの報告がある。 Bodenらは、 同じ動物実験モデルを用いてニコチンによる脊椎骨癒合阻害作用が骨誘導能を持つ骨蛋白抽出物によって抑制できることを示し、この知見を再確認した。 これらの実験は、ニコチンが骨癒合を阻害すること、ひいてはタバコが骨に有害なことを証明した。
ニコチンの有害作用の薬理学
ニコチンが骨や軟部組織の創傷治癒を妨げるメカニズムは確定していないが、仮説は数多くある。 ニコチンは紙巻タバコや噛みタバコに含まれる血管運動作用の最も強い物質であることが明らかにされている。 ニコチンは微小血管を収縮させて、標的臓器への血流を減らしているようである。またニコチンは標的臓器に直接有害作用をもたらしている可能性もある。 血管運動を介した有害作用についていくつかの仮説がある。 ニコチンが間接的にホルモン分泌を増減させる、あるいはニコチンが交感神経節のニコチン受容体に直接作用するという考え方がある。 ウサギの大動脈およびヒトの末梢静脈におけるプロスタサイクリン合成をニコチンが阻害するという実験成績がある。 この結果、血小板凝集抑制と血管拡張をもたらすプロスタサイクリンの働きが抑えられ、血小板の活性化と血管収縮が進み、血管が血栓により閉塞する。 末梢血管収縮作用を持つカテコールアミンの産生を促進することもニコチンの主要な有害影響の一つである。 血液中のニコチンは副腎髄質からのエピネフリンおよびノルエピネフリン放出を増加させる。 標的臓器および末梢の平滑筋におけるニコチンの血管収縮作用はこれらのホルモンを通じた作用である可能性がある。 この考え方は神経終末のほとんど分布していない前毛細血管が血管作動物質の影響を非常に受けやすいという知見によって裏付けられている。 Wigodaらは、喫煙による血管運動作用の主役は神経節あるいは節後神経の交感神経線維に対するニコチン作用であろうと述べている。 彼らは、喫煙者で指の交感神経遮断術前後の相対血流量を測定したところ、神経走行に沿った局所伝達麻酔が喫煙後の血流量低下を防止したことを見いだしている。 骨折が治る途中の血行再開期の血管新生は、ニコチンの持つ強力な微小循環収縮作用によって阻害される可能性がある。 血管新生は正常な成長や損傷修復に欠かすことのできないプロセスである。 ニコチンが血管新生を阻害して骨修復に直接悪影響を与えるとすれば、治療上血流増加が欠かせない創傷治癒、臓器虚血、熱傷、骨折にたいしてもニコチンが悪い影響をおよぼすはずである。 理想的な骨折治癒には骨折修復早期に基質における豊富な血管新生を必要とする。 したがって充分な血流と血管新生を進める適度な刺激がカギとなる。 Rhinelanderらは、骨折部周囲の血管新生が骨折治癒に極めて重要とのべた。骨内での新たな血管の成長を妨げるニコチンの作用は、ハイリスク骨折、 偽関節、骨移植、骨髄炎、関節固定術、骨欠損などさまざまな整形外科的疾患の治療に極めて大きな悪影響をもたらす。 ニコチンは骨芽細胞に直接作用して骨代謝に悪影響を与えているようである。 胎生期に中毒量のニコチンに暴露されると、椎体や長幹骨の化骨が遅れるという動物実験結果がいくつか報告されている。 1991年にFangらは、ニコチンが骨芽細胞様細胞の増殖を抑え、アルカリフォスファターゼ活性(骨芽細胞機能のマーカー)を量反応的に増加させると述べている。 これはニコチンが骨細胞に直接影響を与えていることを示す知見である。 Rampらは、 ニワトリの胎児の骨芽細胞の突起形成をニコチンが阻害しているようだとの知見を発表した。 彼らによれば、ニコチンも噛みタバコの抽出物もともにニワトリ胎児の培養脛骨の解糖を刺激し、コラーゲン合成とミトコンドリア活性を抑制したという。 ヒナの頭蓋冠から採取した骨芽細胞様細胞にニコチンを作用させると、アルカリフォスファターゼの溶媒中への放出と重水素でラベルしたプロリンの水酸化(コラーゲン生成の指標)が阻害された。 ニコチンのアルカリフォスファターゼ活性に対する影響について、彼らの成績はFangらと反対だったが、これは細胞培養条件、実験に用いた骨芽細胞モデル、 細胞の融合度、ニコチンの濃度と物性などの違い、あるいはニコチンおよびその代謝物と溶媒成分との相互作用によるものと考えられる。 これらの実験系におけるニコチン濃度は、習慣的喫煙者の定常状態における平均的血中ニコチン濃度(0.06~0.3マイクロモル/L)と同じかそれを上回るレベルあるいは、 習慣的噛みタバコ使用者の唾液中ニコチン濃度(0.6~9.6マイクロモル/L)に匹敵するレベルだった。 ニコチン濃度が極めて高くなければ骨芽細胞が直接影響を受けることはないため、ニコチンが骨折治癒を阻害する機序は微小循環と骨内循環の阻害によるものと考える方がよいだろう。
術前および術後の禁煙指導
これらの研究結果から、整形外科的手術の前に禁煙する必要があることがわかる。 しかし、たとえば関節固定術のどれくらい前から禁煙をするとよいのだろうか?今のところこの答となるデータはない。 一般的には外科手術の半日から1週間前に禁煙をすべきであるという研究成績はある。 Reeの提唱する最低12時間前というのは、血液から一酸化炭素が排出され一酸化炭素ヘモグロビンが正常レベルまで低下する時間を根拠としている。 またタバコに含まれるフリーラジカルや血栓形成因子の半減時間を根拠として1週間の禁煙が必要と言う者もいる。 手術の後も最低1週間は禁煙を続けるべきであると指導するのがよいだろう。 これはニコチンによる手術創の癒合阻害が最初の10日間続くというMoselyらの実験成績に基づいている。 手術直後の喫煙は、創縁の循環不全による創傷癒合不全を招くため禁止すべきである。 手術直後の問題だけでなく、喫煙が長期的に多くの悪影響をもたらすことも是非とも考慮すべきである。 禁煙によって余計なダメージをある程度予防することはできるだろうが、喫煙によってもたらされた健康被害をすべて帳消しにすることはできないことが多いのも事実である。
結論
喫煙はひきつづき米国における予防可能な病気の主因となっている。 ニコチンと喫煙が骨代謝と骨損傷修復に悪影響を及ぼすことを示す知見は日増しに積み重ねられている。 今後、整形外科患者、とくに手術治療が予定されおり、禁煙して手術に臨む時間的余裕のある患者に対しては、その喫煙歴をもれなく尋ねるべきである。 整形外科医が患者に術後の見通しを説明する際には、かならず喫煙が骨に悪影響をもたらす危険があることを知らせるべきである。