日本禁煙推進医師歯科医師連盟では、学術発表と会員の情報交換の場として年1回学術総会 を開催しております。皆様のご参加をお待ちしております。日時等は改めてお知らせ致します。




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口腔・消化器疾患

 

1,男性葉巻喫煙者とパイプ喫煙者の歯槽骨の吸収と歯の喪失
Krall EA, Garvey AJ, Garcia RI: Alveolar bone loss and tooth loss in male cigar and pipe smokers, J Am Dent Assoc 1999;130(1):57-64,1999.

【背景】たばこは口腔の健康を害することは知られているが、葉巻き喫煙やパイプ喫煙が、歯周病のリスクとして歯の喪失や歯槽骨の吸収にどのような影響があるのかは知られていない。本研究では、葉巻き喫煙者やパイプ喫煙者が、非喫煙者よりも歯の喪失や歯槽骨の吸収のリスクが高いかどうかを調べることを目的とした。
【方法】690名の男性を対象とした。23年間、3年ごとに口腔内診査を行い、残存歯数、1歯あたりの未処置および処置歯面数、歯垢指数、歯石指数、歯周ポケットの深さ、歯肉出血および動揺度を記録した。歯槽骨の吸収度はX線画像から判定した。 【結果】葉巻き喫煙者では非喫煙者に比べて、歯の喪失の相対危険が1.3(95%信頼区間 1.2,1.5)であり、パイプ喫煙者では1.6、(95%信頼区間 1.4,1.9)たばこ喫煙者では1.6(95%信頼区間 1.5,1.7)であった。中等度から重度の歯槽骨吸収の進行を認めた部位の割合は、非喫煙者で8±1%(平均値±標準誤差)、葉巻喫煙者で16±3%(P<0.05)パイプ喫煙者で13±4%(P <0.17)たばこ喫煙者で16±3%(P <0.001)であった。葉巻きおよびパイプ喫煙者と非喫煙者で、最初の診査時に、中等度から重度の歯石、歯周ポケットの深さ、歯肉出血、動揺度を認めた割合については差がなかった。パイプ喫煙者は、非喫煙者より中等度から重度の歯垢沈着を認めた部位は少なかった(7±11vs13±17,P<0.05)。
【結論】男性葉巻き喫煙者とパイプ喫煙者は歯を喪失する危険度が高く、葉巻喫煙者は歯槽骨吸収の危険が高かった。これはたばこ喫煙者と同じくらいの危険度であった。

 

2,歯周治療(機械的清掃)の予後に対する喫煙と禁煙の影響
Grossi SG, Zambon J, Machtei EE,Schfferle R,Andreana S,GencoRJ,Cummins D and Harrap G: Effects of smoking and smoking cessation on healing after mechnical periodontal therapy, J Am Dent Assoc 1997;128(5):599-607,1999.

【目的】喫煙が歯周治療の治癒反応にどのような影響を与えるのかを、また禁煙は効果があるのかどうかを、臨床指標や細菌叢の変化から調べることを目的とした。
【方法】143名(男性77名、女性66名)を対象とした。歯肉縁下のスケーリング、ルートプレーニング、口腔衛生指導を4~6回行い、開始時と治療後に臨床指標(歯垢指数、歯肉出血指数、歯周ポケットの深さ、アタッチメントレベル)を記録した。約半数の74名の被験者より細菌叢を採取し、Bacteroides forsythusとPorphyromonas gingivalisの有無を判定した。これらの平均値を、治療前と治療後で、現喫煙者、元喫煙者、非喫煙者の群別に比較した。
【結果】歯周治療前後で各臨床指標と細菌叢を比較すると、現喫煙者は元喫煙者や非喫煙者よりも、歯周ポケットの深さとアタッチメントレベルの減少度が小さく、治療後も深いポケットが多く残存していた。また、歯肉縁下のBacteroides forsythusやPorphyromonas gingivalisが治療後も検出される率が高かった。
【結論】現喫煙者は元喫煙者や非喫煙者よりも、臨床指標の改善や細菌の減少度がなく、喫煙は歯周組織の治癒を遅延させることがわかった。元喫煙者の治療に対する反応性は非喫煙者と同じくらいであったことから、禁煙によって歯周組織の治癒機構が正常に戻ることが示唆された

 

3,喫煙はクローン病の危険因子   メディカルトリビューン 14 Dec 1998
キングズ医科大学(英ロンドン)のStephen Bridger博士によると,喫煙がクローン病発症のリスクファクターであることを示す新たな証拠が得られた。

 Bridger博士らは,炎症性腸疾患(IBD)患者の兄弟姉妹のペア36組を調査。各組とも,IBDと診断される前には,1 人は喫煙していたが,もう 1 人に喫煙習慣はなかった。加えて同博士らは,IBDが確認された患者412例で構成する第 2 の群を調査。第 2 群の疾患の内訳は,クローン病患者197例および潰瘍性大腸炎患者215例であった
。  同博士によると,クローン病は,13組でペアの双方に発症し,潰瘍性大腸炎は 9 組で双方に発症した。残りの14組では,1 人がクローン病を,もう 1 人が潰瘍性大腸炎を発症した。診断が一致しなかった14組の兄弟姉妹はいずれも,喫煙者がクローン病と診断され,非喫煙者が潰瘍性大腸炎と診断された。
 Bridger博士は「36組の兄弟姉妹のペアで,喫煙者のほうに潰瘍性大腸炎が発症し,非喫煙者のほうにクローン病が発症した例は認められなかった」と報告した。
 また,第 2 群では,クローン病患者197例のうち115例(58%)が診断前に喫煙していたが,潰瘍性大腸炎患者215例では,喫煙者は104例(48%)であった。さらに,クローン病の治療として消化管切除術を受ける確率は,喫煙者のほうが2.3倍高かった。一方,喫煙者が潰瘍性大腸炎と診断された年齢の中央値は,非喫煙者より 9 歳高く,これは統計学的に有意な差であった。

喫煙と家族歴は既知の因子

 ミシガン州立ウェイン大学(ミシガン州デトロイト)の消化器病専門医Alan F. Cutler助教授は「今回の発表は,大きな議論を呼ぶものだ。われわれがこれまで考えていた以上に喫煙の影響の大きさを強調している」とコメントしながらも,「しかし,喫煙がそれだけで,どちらの型のIBDに罹患するかに影響するとは信じ難い」と疑問を投げかけている。
 アレガニー大学(ペンシルベニア州フィラデルフィア)ハーネマン校消化器病科のHarris R. Clearfield教授は「今回の研究は,新しい理論を打ち立てたわけではないが,喫煙とIBDの関係を支持する証拠を提示したことになる。潰瘍性大腸炎やクローン病に対する喫煙の影響は,1980年代なかごろから知られていた」と述べている。
 ベス・イスラエル・ディコネス医療センター(ボストン)炎症性腸疾患センターの所長を務めるハーバード大学(ボストン)のMark A. Peppercorn教授は「これまでの研究を総合すると,喫煙が潰瘍性大腸炎には好影響を及ぼし,クローン病には悪影響を及ぼすということだ」とコメント。「今回の研究では,興味深い方法で喫煙の影響を調査してクローン病と喫煙との関係を支持する証左を引き出しており,これまでの一般的理解にまた新たな論拠が加わった。喫煙習慣の不一致にもかかわらず,22組の兄弟姉妹で診断が一致したとの知見は,IBDの病因にほかの因子が関与することを示唆している」と述べている。

 

4,H.pyloriをnon-ulcer dyspepsiaの危険因子から除外  メディカルトリビューン 13 Oct 1998
Nepean病院(豪ニューサウスウェールズ州ペンリス)のNicholas J. Talley博士は『Archives of Internal Medicine』(158:1427-1433)に「Helicobacter pylori(H.pylori)がほとんどの消化性潰瘍の発症に関与していることは周知だが,今回,H.pyloriの感染がnon-ulcer dyspepsia(NUD)のリスクファクターではないことを示唆する結果が得られた」と発表。「今回の研究から,喫煙およびアスピリンの服用とNUDとを関連付ける結果も得られ,これまでの研究知見が裏づけられた」と述べた。

dyspepsiaの症状のない患者も感染率は同等

 Talley博士は,地域の献血者592例から血液を採取すると同時に,dyspepsiaの症状,喫煙習慣,アスピリンの服用,ならびにアルコール・コーヒーの摂取状況に関するアンケート調査を行った。同博士らは,dyspepsiaを「上腹部を中心とする痛みまたは不快感」と定義。H.pylori感染の有無は,同菌に対する抗体を測定する血液検査により判定した。その結果,地域におけるdyspepsiaの有病率は13.2%に達し,一方,NUDの有病率は11%であることが明らかになった。同疾患と,加齢や性別との関連は認められなかった。
 被験者592例のうち,87例(14.7%)がH.pylori陽性と判定された。感染の陽性率は年齢とともに上昇し,年齢が10歳上がるごとに感染の可能性が80%上昇した。また,男性での感染の可能性は女性の 2 倍に達した。
 最終的に,H.pyloriの検出率はNUD患者では15.4%,dyspepsiaの症状のない被験者では14.6%となり,両群に有意差は認められなかった。
 同博士は「H.pyloriが消化性潰瘍を引き起こすことは明らかだが,潰瘍がない場合の胃痛の原因ではないようだ」と指摘。「これは重要な所見だ。というのも,多くの医師が患者の要請により,すべてのH.pylori感染者を同じように治療しているからだ。しかし,われわれの研究および最近得られた別の知見から,潰瘍が認められない患者では,こうした治療により症状が軽減する見込みは薄い」と述べた。

アスピリンと喫煙が危険因子

 さらに,同博士は「dyspepsiaを認めた被験者では,アスピリン服用者が2.2倍多く,喫煙者も2.2倍多かった。1 日に 5 本以上喫煙する被験者では,dyspepsiaとなるリスクが50~70%上昇していた。喫煙が胃痛と関連しているようだが,直接の原因かどうかは明らかではない」と述べた。一方,同博士らの研究では,dyspepsiaとアルコールやコーヒーの摂取との関係は認められなかった。
 テンプル大学(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のHenry P. Park-man准教授は,今回の研究を称賛。その理由として「地域から収集した検体を用いている点を評価する。これにより,dyspepsiaを訴えて来院した特殊な患者群を対象とする評価よりも,正確なリスクファクターの評価が可能になったからだ」と述べた。
 さらに,同准教授は「Tally博士らの知見は,特定の患者群においてH. pyloriがNUDに関与している可能性を否定するものではない」と指摘した。実際,最近発表された他の研究では,H.pyloriが関与するNUD患者の 5 分の 1 で,除菌療法により症状が消失したことを示唆している。すなわち,無作為プラセボ対照試験では,オメプラゾールおよび抗菌薬の併用療法で治療した患者154例のうち33例(21%)で,1 年後にdyspepsiaの症状が消失した。一方,オメプラゾールおよびプラセボを投与した患者154例のうち,症状が消失したのは11例( 7 %)にとどまった。

 

5, 口腔粘膜癌が増加傾向に早期発見と手術で予後の改善を メディカルトリビューン 2001年2月15日 (VOL.34 NO.07) p.05

ドイツでは口腔粘膜癌がますます増加傾向にあり,男性の癌罹患率では既に 7 位にランクされている。 ハレ大学病院(ハレ)口腔・顎・顔面形成外科のJohannes Schubert教授は,第73回北部ドイツ皮膚科学会で 「決定的な原因物質はアルコールとニコチンであり,最も重要な予後因子は早期発見である」と強調した。

飲酒と喫煙でリスクは90倍に

 口腔粘膜癌は悪性度の最も高い腫瘍の 1 つで,死亡率は50%を上回る。明らかなリスク因子はアルコールと ニコチンの乱用で,30年間喫煙を続け,毎日最低75gのアルコールを摂取していれば,発癌リスクは90倍にも跳ね上がる。 口腔内での慢性的な局所刺激因子が発癌を促す役目を果たしているのである。
 ザクセン・アンハルトでは今日,若年女性の約70%が喫煙者である。このことは,あと20~30年もすれば, 女性における口腔粘膜癌の発症率が男性と肩を並べることを意味している。 現在,口腔粘膜癌の新規発症件数は年間約9,700件であるが,増加傾向をたどっている。
 口腔粘膜癌の80%以上は扁平上皮癌である。典型的な癌性潰瘍はクレーターのような形をしており,堤防状の 辺縁部は軟骨のように硬い。これと並んで,びらん性増殖タイプや外方増殖性のタイプも見られる。 白斑症は前癌状態である。軟部組織における結節や肥厚,創傷感,そしゃく障害や嚥下障害,感覚麻痺感, 嗄声などを認めた場合,癌を疑ってみる必要がある。

咬合損傷などとの鑑別を

 最初に診断が付けられた段階で,既に15~25%ではリンパ節転移を認める。最初に冒される部位は下顎角の 後側のリンパ節であることが多く,硬く,無痛性で,非可動性のこともあれば,被膜を突き破っていることもある。 口腔粘膜病変に対する鑑別診断では,夜間のそしゃく運動や歯ぎしりによる慢性的な咬合損傷,義歯の鋭い縁 などの刺激によって生じる乳頭腫や線維腫のような良性腫瘍をおもに考えるべきである。 エプーリスは,歯肉に固着している良性の炎症性増殖物であり,1 本の歯牙の近辺に見られる。
 口腔内悪性腫瘍に対する基礎療法は手術である。 早期癌に対して外科手術を行った場合,5 年生存率は約80%に達している。 このように,早期発見は予後を決定付ける最も重要な要因である。他の治療法としては,補助的な照射療法や 化学療法が挙げられるが,姑息的療法であっても患者のQOLを常に念頭に置く必要がある。

 

6, 歯周病に受動喫煙が関与 メディカルトリビューン 2001年4月19日 (VOL.34 NO.16) p.36

たばこ製品を一度も使用したことのない米国人の間で,環境中のたばこの煙(副流煙)に定期的に 曝露された人は,そうでない人と比べて,歯肉疾患にかかりやすいことが,ノースカロライナ大学歯学部 口腔・全身性疾患センター(チャペルヒル)のSamuel J. Arbes, Jr.氏らの研究で示唆された。 この研究は,American Journal of Public Health(91:253-257)に発表された。

リスクが50~60%高い

 1988~94年の第 3 回米国保健栄養調査(NHANES III)のデータを分析した今回の研究は,周囲に 喫煙者のいる非喫煙者が,そうでない人よりも,歯周病のリスクが50~60%高いことを明らかにした。
 しかし,Arbes氏らは,この知見が関連の証拠は示すが,証明したわけではないという。 同氏は「家庭や職場で副流煙にさらされている成人非喫煙者の11%が歯周病にかかっており,そのリスクは, 受動喫煙にさらされていない人に比べて約1.5倍であった」と述べ,「このリスクの増加は,5 倍もリスクが増加する 能動喫煙と比べれば,はるかに小さいが,副流煙は全国的に見れば多くの例で歯周病の原因になりうる」と強調した。
 同氏らは,NHANES IIIデータのなかから,喫煙経験がなく他の形態のたばこ製品も使用したことのない18歳以上の 米国人6,611人について評価した。 この調査は,国民の健康評価のために米連邦政府によって行われている一連の国内調査のなかで最新のものである。

全米に一般化できる研究

 Arbes氏は「NHANES IIIデータを用いる 1 つの利点は,それが一般市民,すなわち施設による偏りのない 米国人口の標本であること。そのため,今回の結果は,全米に一般化できるものである」と主張している。
 今回の研究の非喫煙成人の約 3 分の 1 は,家庭あるいは職場での“受動喫煙”とも呼ばれる副流煙にさらされていた。 しかし,同氏らは,その量は測定していない。
 どのようにして喫煙が歯周病を引き起こすのかに関して,同氏は「能動喫煙は歯周病の最も重要な危険因子の 1 つであり,多くの研究によってその影響が解析されている」と述べた。 さらに,同氏は「能動的に喫煙するか,あるいは他人の喫煙による煙を吸ったときに,体のなかに入り込む多くの 化学物質の 1 つはニコチンである。 以前の研究では,たばこの煙のなかのニコチンが免疫系を弱め,歯の周囲の組織も含めた血管の収縮を 引き起こすことを示唆しており,このことは,これらの組織中の酸素を減少させ,免疫系の弱体化とともに, 歯周病を引き起こす細菌にとって好ましい環境をつくり上げてしまう」と説明。 「疑いもなく,実態ははるかに複雑なものであり,他者の喫煙が疾患を促進する機序はまだ研究されていない」と付け加えた。
 歯周病は歯を支えている軟組織と骨を破壊し,しばしば歯が抜けてしまう。 同氏は「受動喫煙が歯周病の原因であると主張することも,あるいは,なんらかの対策を勧告することも 時機尚早であると強く信じている」としながら,「能動喫煙による口腔衛生への既知の危険を繰り返し述べるのに, この知見を用いるのは理にかなっている。 さらにこの研究により,歯科衛生関連の医療提供者が診察時に禁煙を促進する動機付けになることを期待する」と述べた。
 共著者は,同センターのHelga Agustsdottir氏,歯科生態学のGary D. Slade准教授である。